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資本主義のメカニズムをわかりやすく―『人新世の資本論』を読んで

くまもん posted by くまもん

今話題になっている斎藤幸平『人新世の資本論』を読んでみました。

「脱成長」をテーマに掲げ、非常に刺激的な一冊でした。

ここで前提となっているのが「資本主義のゆがみ」なのですが、この本ではその説明があっさりと終わっている部分があったので、ここで一度、わたしたちが生きる「資本主義」ってやつがどんな存在なのか、立ち止まって見ていこうと思います。

 

資本主義の正体―「近代世界システム」

アメリカのイマニュエル・ウォーラーステインという社会学者は、「資本主義というのは、一つの超巨大なシステムなんだ」ということを主張しました。

『人新世の資本論』ではこのように説明されています。

 

資本主義は「中核」(原語はcore.「中心」や「中央」とも呼ばれる。先進国のような先進的な地域を指す)と「周辺」(原語はperiphery.周縁とも呼ばれる。途上国のような経済発展しきっていない地域を指す)で構成されている。グローバル・サウス(≒いわゆる途上国)という周辺部から廉価な労働力を搾取し、その生産物を買い叩くことで、中核部はより大きな利潤を上げてきた。労働力の「不等価交換」によって、先進国の「過剰発展」と周辺国の「過少発展」を引き起こしている。

『人新世の資本論』p.30 ()内は筆者が加筆

 

『人新世の資本論』では気候変動と資本主義の関係の方を述べたかったようなのであっさりとした説明で終わっていますが、実はウォーラーステインが自分の主張を書き記した『近代世界システム』は一冊約500ページが4巻にわたって続いていたりします…。

というわけで、これから近代世界システムの姿をもう少し詳しく見ていきましょう。

 

「近代世界」という超巨大なシステムが生まれるまで

近代世界システム論は、ウォーラーステインが一から考えたものではなく、フランクが唱えた「従属理論」を発展させたものになります。

 

フランクは、植民地支配が盛んだった帝国主義時代を分析した結果、列強と呼ばれるような他国を侵略し植民地支配をした国々を「中枢国(メトロポリス)」とし、植民地支配された国々を中枢によって衛生化されたという意味で「衛星国(サテライト)」と呼びました。

そして、衛生化した国々が本来持つはずだった資源を、中枢国が根こそぎ奪っていった結果、衛星国は自国に自国を発展させる手段がなくなってしまった衛星国は、中枢国に依存するようになっていきました。

 

ウォーラーステインは、フランクが中枢国と呼んでいた国々を中心と呼び、衛星国と呼んでいた国々を周辺と呼ぶようにしました。そして、帝国主義時代から続く中心―周辺の関係は、今もなお、より強固に結びつき、続いていると結論づけ、その関係によって成り立った現代の世界を「世界システム」と呼んだのです。

 

世界システムが生み出した「ゆがみ」

世界システムはゆがんだ関係から出発しましたが、富める国々がますます富み、貧しい国々がまったくその状況から脱出できない現状を見るに、今もそのゆがみはなくなるどころかより強固になっていると言えます。なぜでしょうか?

 

その仕組みを暴き、行き過ぎた資本主義社会に警鐘を鳴らした人物がいました。その人物こそが、『人新世の資本論』の中でも何度も出てきたマルクスです。

 

マルクスは、不等価交換が起きるメカニズムを労働価値説という言説にまとめました。

労働価値説はかなりややこしくて難しい概念ですが、なるべく噛み砕いて説明すると次のようになります。

 

まず、「労働力」はそれ自体で商品の一つです。

労働力という商品の価値は、労働力を作り出すのに必要な労働量(必要労働量)に等しいです。

労働者は、自分の労働力を市場に売ることによって、その対価―つまり賃金を得ることができます。言い換えると、自分と労働力と賃金を「交換」しているのです。

 

さらに労働者が定められた労働時間を超えて働くとどうなるでしょうか?労働力を生産するのに必要な労働量を超えて労働することになりますね?

そうすることで、労働量のあまり、マルクス風に言うと「剰余労働」が発生します。

剰余労働が生産される商品に投下されると、商品の価値はさらに高まります。マルクス風に言うと「剰余価値」が発生します。

 

剰余価値を生み出すと、商品を生産するのにかかった価値(原料と労働力を確保するのにかかった費用)よりも生産された商品の価値の方が高くなるので、等価交換であっても利益が発生するんです。

 

以上がマルクスが唱えた労働価値説なのですが、これを世界システムに当てはめて考えてみましょう。

中心と周辺の関係は等価交換ではなく不等価交換によって成り立っています。この不等価交換は、周辺における労働者の賃金が、中心に存在する労働者の賃金(=本当に必要な労働者の賃金)よりも低く見積もられているため、おきているのです。

 

等価交換でも利益が発生するにも関わらず、周辺との不等価交換によって中心が利益を高めている。

 

これが、中心と周辺の不均衡な関係を作っている根本的な原因になります。

 

世界構造が今も暴力を振るっている

このように、誰か特定の人物が作ったわけではないから、直接的に誰かに責任を問うことはできないにも関わらず、その構造の中にいる誰かが不当な不利益を被ってしまっている。

平和学を創ったガルトゥングは、こういった状況を「構造的暴力」と名付けました。

 

この世界のどこかにいる誰かは、見えない構造によって、今も暴力を振るわれ続けています。

構造的暴力は、単に経済的な不利益にとどまりません。

 

コンゴ民主共和国という国があります。

そこでは、中心の人々が日々利用しているパソコンに使われる「レアメタル」をめぐって、ずーっと紛争が続いています。

 

まだ知らぬだれかのために、ぼくらは脱成長を目指さなければならないときが来ているのかもしれません。

 

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